ウィニフレッド ラベル 作
じん ぐう てるお やく
神宮 輝夫 訳
小さなおじいさんが、 小さなめすの黒犬を かっていました。とても小さな犬だったので、 「ねずみ」という名前をつけました。 ねずみは、 かりが大好きでした。子うさぎぐらいは見つけたいと、 鳥のおばねのようなしっぽをふりながら、 小さい短い足で、 ちょこちょこ森の中をかけ回りました。ねずみは、 長い鼻で、やぶの下やしだの中や木の切りかぶのまわりや生けがきを、 クンクンかいで回りました。 じつは、 まだ、 うさぎをつかまえたことはないのです。 それでも、ねずみは、 うさぎあなを見つけるために、 毎日、 森の中をせっせとかけ回っていました。
冬のある日のこと、 ねずみが、 においをかぎながら、 森の小道を小走りにかけていくと、 とつぜん、 すてきなうさぎのにおいにぶつかりました。 ねずみは、ぞくぞくするほどうれしくなって、 キュウキュウと鳴きました。 それから、 やぶをぬけ、 しだをおし分け、 木の切りかぶを回り、 生けがきのわきをかけていきました。 すると、 目の前に、 あなが一つありました。 うさぎあなです。それは、 大きなあなでわりませんでした。 しかし、 ねずみは、 とても小さな犬です。 ねずみは、 あなにとびこむと、 長いトンネルを おりていきました。 それから、 立ち止まって、 ワンとほえました。
目の前に、 大きくて強そうな茶色のうさぎがいたのです。 ねずめは、 うさぎに 向かってほえました。 ところが、 うさぎはにげません。 長い耳を左右にふったり、 やわらかい鼻をひくひくさせたりしながら、 じっとすわっていました。 ねずみは、 せいいっぱい大きな声を出して、 ウオー、 ウオーとほえました。 それでも、 うさぎはにげませんでした。
「あなたは、 どうしてにげないの。」と、 ねずみはききました。
「あなたがにげなければ、 つかまえられないじゃないの。」
「君は、 なぜ、 わたしをつかまえたいのかね。」と、 うさぎは言いました。
「なぜだか、 よく分からないわ。 でも、 うさぎはにげるもの、 犬は追うものと決まっているでしょ。 あなたは、 わたしがこわくないの。」と、 ねずみが言いました。
「こわくないさ。 だって、 君は、 とても小さいから。」
「それじゃ、 ほえるから聞いてごらんなさい。 こわくなるか。」
ねずみは、 いっしょうけんめいほえました。 すると、 「あら、 あら、 いったい、 なんのさわぎです。 しずかにしてくださいな。 赤ちゃんが起きてしまうから。」と言って、 うさぎのおくさんが出てきました。
「あら、 あなたなの。 森でよく見かけますね。 さあ、 そんな声を出すのはやめて、 わたしたちの赤ちゃんを見にいらっしゃい。」
うさぎのおくさんは、 もう一つのトンネルのおくへ、 ねずみをあん内してくれました。 おくさんのへやでは、 うさぎの赤ちゃんが、 五ひきならんで、 気持ちよさそうにぐっすりねむっていました。
「これで、 ここまで来る道が分かったでしょ。 またいらっしゃい。 さよなら。」 と、 うさぎのおくさんが言いました。
次の日、 小さなおじいさんとねずみが外に出ると、 外は、 一面の銀世界でした。 夜の間に、 雪がふったのです。
「お前に、 あたたかい洋服を買ってあげよう。」 小さなおじいさんは、 小さな犬のために、 あたたかい、 きれいな洋服を買ってくれました。 赤いふちどりのある青い洋服でした。
「さあ、 着せてあげるよ。」 小さなおじいさんは、 ねずみに洋服を着せてやりました。 首とおなかのところを、 ひもでむすぶのです。
「これで、 もう、 雪がふってもさむくないよ。」と、 おじいさんは言いました。 ねずみは、 いやがってうなりました。 首とおなかが、 きゅうくつでたまりませんでした。 それに、 洋服は、 足のところまでかぶさっていて、 自由に歩くこともできません。
ねずみは、 洋服をぬいでしまおうとして、 もがきました。 しかし、 赤いふちどりをした青い洋服は、 体にぴったりくっついて、 どうしてもぬげませんでした。
小さなおじいさんは、 だんろのそばで、 うとうといねむりを始めました。 ねずみは、 入り口からそっとぬけ出しました。 雪の上に小さな小さな足あとをつけながら、 森の小道を、 ちょこちょこ歩いていきました。
ねずみは、 やぶの下やしだの下や木の切りかぶのまわりをにおいをかいで回り、 生けがきのわきをかけて、 ようやくうさぎあなに着きました。
ねずみは、 ワンと一声小さくほえてから、 トンネルをおりていきました。
「おや、 あなたはだれですか。 あら、 ねずみさんね。 スケート服なんか着ているから、 だれだか分かりませんでしたよ。」と、 うさぎのおくさんが言いました。
「これは、 スケート服でわないの。 上等の洋服よ。 でも、 きゅうくつで、 わたしはきらい。 うさぎさんにあげるわ。 赤ちゃんの毛ふにちょうどいいと思いますよ。」と、 ねずみは言いました。
「ええ、 ぴったりですよ。」と、 うさぎのおくさんは言いました。
「ぬがせてあげましょう。」
そこで、 お父さんのうさぎが、 するどい前歯で、 首とおなかをしめつけているひものむすび目をかみ切ってくれました。 うさぎのおくさんが、 ぬげた洋服を、 ねむっている五ひきの赤ちゃんに、 そっとかけてやりました。
「子どもたちが、 ますますかわいいらしく見えるわねえ。 それにあたたかそうだこと。 わたし、 前から、 青と赤の毛ふがほしいと思っていたのですよ。」と、 うさぎのおくさんが言いました。 ねずみは、 とてもうれしい気持ちで、 さようならを言って、 家に帰りました。小さなおじいさんは、 ねずみを見て、 びっくりしました。
「 おや、おや、 あの洋服はどこへやった。」
「うふうん。」 ねずみはそう答えただけで、 後はしっぽをふっていました。
「さがしに行こう。」
小さなおじいさんは、 雪をかぶった森の中を、 洋服をさがして歩きました。 ねずみもついていきました。 おじいさんが、 どんなにさがしても、 赤いふちどりのしてある青い洋服は 見つかりませんでした。 でも、 ねずみは、 それからも、 たびたび洋服を見に行きました。
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